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緑霧の光が揺らめく樹々の下、
吊り下げられた輪の隙間から
僕は 紙袋に入った 乳児の遺体を見つけた。
泥に塗れた紙袋は
夜露にふやかされた為か 既にぼろぼろに朽ち果て、
その裂け目からは 変わり果て 生気を失った肉の塊が
寂しげな色彩に染まりながら 肌を晒す。
この子は その短い命を終える刹那
何を想って逝ったのでしょう?
「金の有る者 金の無い者」
「顔の良い者 悪い者」「五体満足 不満足」
挙げてゆけば切りが無い。
この世は 不平等で満ちている。
望まれて生まれ 愛される命もあれば
この子の様に
望まれず生まれ 疎まれる命もある。
揺り篭と紙袋。
それは 努力など介在しない
"運"だけで行き着く場所。
抑え切れない程の切なさに
堪らず顔を覗き込むと
愛を知らないその顔には 哀が満ち、
幾つもの穴は 不自然な笑みを形成して蠢く。
埋葬虫。
甲虫目シデムシ科
亜社会性昆虫に含まれるこの虫は
虫でありながら育児をする習性を持つ。
何と皮肉な事か、
育児放棄されたこの子の皮下で
口移しで紡がれる愛。
僕は眼前で繰り広げられる
偉大な愛を目の当たりにし
暫しの間、言葉を失う。
「僕は驕っていたのかも知れない。」
死体に背を向け 林道へと戻る道すがら
こう呟いた僕の瞳は 力強く前を見つめていた。
通報はしない。
愛を知らないあの子は
自分の身体を捧げる事で
今、やっと
母の愛を感じる事が出来たのだから。
始発点が違っても 不平等でも
僕には大切な人がいる。
この命が尽きるまで
精一杯 足掻いてやろう。
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