かげほうし
音が聞こえる…

僕は歩いた。

歩いた…

歩いた……

歩いた………。


やがて 道無き道の果てに光が見えた。

ここは何処なのか?

僕はいつから此処に居るのか?

…そもそも僕は誰なのか?

僕の問い掛けに答える者は無い。


分かっているのは 
ここには何も無いということ
ここには僕しかいないということ。


一体どの位の時間歩いたのだろう?


光はまだ 遥か遠く
がむしゃらにもがく僕を
憂い揺らめく。


僕は走った。

走った…

走った……

走った………。

一体どの位の時間走ったのだろう?

次第に音は高まり 希望は輝きを増す。

この音は何の音?

…分からない。

なぜ僕は、彼の光を目指す?

…分からない。

そこには何がある?

…分からない。

理由なんかどうでもいい。

…ただ、僕は、
……その輝きに触れてみたかった。

一体どの位の時間想ったのだろう?

ついに僕は 光の許へと辿り着いた。

僕は暫し その神々しいまでの金色に見惚れた。

光はただ、無言のまま明滅し
僕という存在を優しく照らす。

…僕は確かに此処にいる。

曖昧だったその認識が確証へと変わった。
…僕は此処にいる。

熱い想いが心を駆け
冷え切った心は温もりを帯びる

…その輝きに気付いたのは何時の頃だったか。

それは数十年前… いや、数百年前………?

…気の遠くなる程の刻を
気が狂いそうな程の時間 この空虚な世界で過ごしてきた。

…もはや僕には、刻の感覚など存在しない。
唯一分かるのは、歓喜に震える僕という名の事象だけ。

僕は次第に鮮明になる自分の"身体〟に気付く。

これは僕の身体なのか?

僕には身体があった?

それとも、たった今、
光を浴びたその刹那に手にしたのだろうか?

…いや、もしかすると、
僕が気付いていなかっただけで
初めから存在していた?

…少なくとも、これだけは断定できる。
僕は今、此処に存在する。

僕はその輝きの中心、
一際大きな光の柱の許へと歩み寄る。

彼の光との距離が縮まるにつれ、
僕の存在が色濃く映し出されてゆく。

…もっと!

……もっと!!

………もっと僕に光を!!!

高ぶる想いが僕の中から留まることなく溢れ来る。
疑問が確信に変わった。
僕は「無」ではなかった。

…しかし、まだ分からない事がある。
……僕は何者なのだろう?

彼の光に触れる事が出来れば、
その疑問の答えは出るのだろうか?

…次の瞬間、
僕は彼の光に手を伸ばしていた。

「触れてはいけない。」

…何処からともなく、声が響いた。

それは誰の声?
此処には僕だけしかいない。

…誰でもいいさ、
僕は自分の事を知りたい。

僕はその声を気にする事無く、
彼の光に再び手を伸ばした。

「触れてはいけない。」

また聞こえた。

一体、誰が語り掛けているのだろう?
…何故、触れてはいけないのだろう?

否、そんな事は関係ない!!

そうだ、
………関係ないんだ。

彼は、僕の存在を、

…深淵の遥か彼方、
暗闇の中で悶え惑う、
僕という事象を鮮明に映し出してくれた。

…もう、迷うものか。
迷うのは、………もう沢山だ。

僕は光の中心、
既に黄金色すら超越した、
限り無く白に近いその光にその身を委ねた。

暖かい光に抱かれ、
僕の身体は融けて逝く。

その刹那、僕は知った。
僕が、何者なのかを。

…後悔は無い。

これは僕の、…最初で
………最後の決断なのだから。

僕は深淵の闇から生じた、小さな影。
光なくしては、その存在すらも証明出来ない、ちっぽけな影。

光に恋をした、

                    ………愚かな影。
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2006.06.06