頼りないなめくじ
工業排水が流れる場所で
僕は一匹のなめくじを見た

真緑の石の上に
てらてらと線を引きながら
濁った空と油の間で
脳腫瘍を患った
なめくじが這ってゆく

上流から下流へと
押される侭に引き寄せられて
すっかり逆さまになってしまった
僕の視界の中を
なめくじが這ってゆく

雲一つ無い空は
溺れる様な深さに染まり
突き刺す光のかざぐるまが
クラクションの間を
染入る様に縫ってゆく

前のめりの鉄板は
頼り無さ気な芽を生やし
小刻みに震える細長い口は
黒い涎を撒き散らす

曲がった場所から根が生えて
やがて落ち着く頃にでも
この視界が
何処に行き
どう在るべきなのか
暗転する流れと
回転する転地に張り付いている
頼りないなめくじに
訊ねてみようと思うのです。
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2008.09.13