陽の沈まない街
臨む聳え立つような坂道を
剥き出しの路面電車が昇ってゆく

自転車通学の学生たち
飲み込まれるような
薄暗い蒼の中
大腿筋を軋ませながら
はちきれんばかりのときめきを
どこか心地良さすら感じる
乾いたまどろみの中に溶かしている

路肩で腕組みする
スチール製の柵たちの背後には
艶やかに潤った木々や草や苔が
僕達が流す
騒々しい鉄の擦れる音と拮抗しながら
級友宅へと引き寄せられる道すがら
絶え間なく茂っているのだ

さて、果たして
此処に向うものの幾らかが
思惑の殻の中を
覗くことを許してくれるのだろうか?

壁面からこちらを見下ろしている
一柱の太い影は
首元と胸元から伸ばした腕腕で
不安定な知覚と情景を
繋ぎとめている

ゴンドラが迎えに来た

強風に煽られて
鉄柱ごと剥離しそうな
やけに眩しい
僕らの街並みは
ただただ白く青く整然と清清しく
磨り減るタイヤの音と
止まらない心拍を
延々と延々と刻み続け
記憶の中に
消える事の無い痣が浮ぶ

それは心地の良い日差しと共に
網膜に焼き付いて
目を閉じても
いつまでもいつまでも
離れる事は無い

水路が入り組む裏路地を抜け
木造の吊り降ろし階段を昇ると
ああ、そこは
閉塞的な感情の篭った
級友の部屋

もう永い事
主は留守にしているようだ

埃の溜まった部屋には
既に多くの級友が集結し
彼がいつ帰って来るのかと
深緑色の絨毯に腰を下ろし
寡黙に、ただ寡黙に
窓の前の机を見つめていた
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2009.04.17