薇都市
八の字に割けた大通りに
引っ掛かった群集が
曇天の空の下で
ぱくぱく、
ぱくぱく、と
無気力な
口唇開閉運動を繰り返している

噴水の周辺を取り拉ぐ
潰れた深緑が
大きな染みを滲ませながら
側頭から見つめるこの光景に
芳香で愚鈍なまでの
草臥れた薫りを充満させるのは
一昼夜明けた市中の電柱から
無造作に背伸びする薇(ゼンマイ)が
螺旋状の窮乏に
耐え難い虚しさを
覚えているからに他ならない

さあ、重たい
炭化水素の成れの果てを
琥珀色の分泌物で染めてしまおう

構造的な安定も
静電的な安定も
繊毛を生じさせる
丸く広がった基部の乱立により
同種電荷がもたらす
相互反発作用から解放され
無形、有形、
処理限界を超える情報が
下流へと押し寄せ
排他的な求愚者の様に振舞いながら
視界の外へと零れ落ちてゆく

郊外に聳える
高速道路橋の足許
捉え損ないの浮きカスたちが
いつまでも分解される事無く
吹き溜まっているのは
普遍的無意識の中で
自らの存在と可能性を
黄昏た街並みに
知らしめる為に他ならない
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2009.06.08