哺乳綱ネコ目イヌ科キツネ族
大層な理屈をぶら下げた
屈託のない心持ちをした犬めが
我が家の裏手にある空き地へと
居付いてしまった

こんなにも空は濁っているのに
網の目状の柵の側には
洗濯物がどっさり入った
洗濯籠などが並べられ
まるで心地良い日差しの中に在るかの様に
ご機嫌な鼻歌なんぞを響かせているのは
この犬畜生にとっての空が
世に生を受けた時分から
常に濁っていたからに他ならないのだろう

じっとりと纏わり付く
不快な湿気に嫌気が差し
いっそここから消えてしまおうかと
思い始めていた矢先、

隣家の玄関から
勇ましい掛け声と共に
初老の男性が飛び出してきた

その手には
打ち上げ花火と洗濯バサミ

こいつもか、
こんなにもじめじめとした
湿度の高い日だというのに…

よく見れば
他のお宅の敷地でも洗濯物を干していたり、
広げたビニールシートの上で
お弁当を食べていたりといった光景が
ちらほらと見受けられる

2階のベランダから身を乗り出し
憂鬱な気分で空を眺めていた私の方が
まるで馬鹿の様ではないか!

俯いているのは
不機嫌な空から外れた
ご機嫌な抑制たちが
もうじき壊れてしまうのを知っているから

祝砲なんか打ち上げたって
芝生の上に寝転んだって
それは全て挿げ替えられた
出来損ないの身体で感じる高揚なのだと
私が彼らにいくら説明した所でも
彼ら自身の心が
その違和感に苛まれない限り
理解してもらう事は叶わないのだろう

まぁ、しょうがあるまい
この湿気った住宅街に於いては
彼らこそが模範的市民で
私こそが異常者なのだから

「好い天気ですね」

曇天の空の許、
心にも無い言葉で茶を濁す

頭頂部の欠損から
箱の中の卑しさが顔を出す限り
作り笑いを浮かべながら
お前が心を許すその瞬間まで
空気とやらに馴染んで置くのも
悪くはないだろう

肩書きだけでものを語る詐欺師に
肩書きだけで信用する間抜け

白と黒の2色だけが渦巻く
彼らの短絡的思考回路では
懐柔された犬と血に餓えた狼
虎視眈々と寝首を狙う狐を
見分ける事など適わないのだから
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2009.09.09