泥濘のこと


泥濘に脚を捕られた人は月転の香

時晒し説き曝す。



自らの重みで沈んでゆく事にさえ気付かず

御使いは高らかに両手を掲げ叫ぶ。

「主は仰いました、その身を差し出しなさい。」



泥濘の中の子羊は晴天を仰ぎ 呼吸を乱す

幾つもの叶わぬ想いの残骸に恐怖しながら。

「主よ、どうか救い給え」



御使いは 擡げた顔を押し付け空に近付く。

子羊は 幸せそうな顔で泥に溶けた。



泥濘の外の山羊は早足で通り過ぎ 呟く。

「ここには碌な草が生えない」
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2007.02.16