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顔無し
理想と幸福との間に
貧相な容姿をした人々が
居ついてしまった
伸びきった髭に
フケだらけの痛んだ髪
色褪せ伸びきり、黄ばみを帯びた服に
其の身を預けざるを得ない
見窄らしい風体をした
浮浪者たちの群れであった
軽蔑した瞳で
遠巻きに眺める人々
嘲笑する者
憐れむ者
反応は様々だが
唯一共通するのは
他人事という意識だろう
逞しい幹に支えられ
幾重もの枝を天に這わす事の出来る
何の不自由の無い生活の中で
少なからず
彼らより上に居るという
ちっぽけな優越感に蝕まれ
幸せとはどういったものなのかという
ちっぽけな疑問にさえ
答えを窮してしまう
ちっぽけな自我に気付いた時
華やかだった
私の生活は一変し
ダニと空腹が支配する
惨めで不様な色へと染まっていった
ゴミ箱を漁る
俯瞰的と称した
主観的な現実
ビニールシートの中で
愛し愛された日々について
想い想われた日々について
未だ抜け出せぬ矛盾について
延々と延々と…
もしかすると
私の幸せ、
…否、
私の人生自体が
詐称であったのかも知れない
華やかな演出に彩られた
愛を掲げた不様で滑稽な茶番
私はきっと、
心から愛する大切な人たちにさえ
私自身の愛を示す事をしてこなかったのだろう
小道具、大道具、
時に舞台セットまでをも揃え
誰かの作った脚本を
必死に演じながら
愛というものを振りまいていたのかも知れない
父や母、兄弟、友人、
そして君すらも欺きながら
何年何十年と虚飾の日々を重ね
今、自らが歩んできた道を振り返ってみると
其処に、
私と呼べる存在は居なかった
皆が愛してくれたのは
きっと私ではなく
私の演じる、
誰かの想い描いた理想だったのだ
痒い 寒い 痛い
私は、
もうじき死ぬのだろう
湿気を帯びた
黴の生えた毛布の中で
誰の目にも触れる事無く
虫たちと戯れながら
虚像の陰で過ごした
つまらない、
実につまらない一生を終えるのだ
それで
いいのかも知れない
私が死んで
誰が泣くというのだろう
誰が悔やむというのだろう
きっと、
私が死んだ事にすら
気付く者は居ないでしょう
哀悼される対象は
私ではなく、私の虚像
私自身すら欺き
顔も名前も戸籍も
人生全てを奪っていった
私の片割れ、私の理想
生活に追われ
愛されたいと想うが故に生じた
私自身の影
笑ってくれ
今や、お前が私で
私が影だ
こんなにも…、
こんなにふざけた話があるだろうか
順風満帆な人生、
さぞかし満喫した事でしょうね
だが、その人生も
もうお終いだ
「嫌だ、死にたくない!」
「否、私は此処で死ぬ!」
胸が詰まる、胸が空く
嗚咽が漏れる、笑いが漏れる
こんな時にまで
お前はしゃしゃり出て来るんだな
後生だから、
最後を迎える時ぐらい
私を私でいさせてくれよ
いつの頃からだろう
理想と幸福との間で
福相な容姿をした虚像が
居ついてしまったのは
カビきった卑下を
コケだらけの痛んだ紙に書き殴り
色褪せ張り付き、僻みを帯びた不服に
其の身を預けざるを得ない
見苦しい焦燥に駆られた
戸籍の無い人格の成れの果て…
誰にも知られる事無く
誰からも好かれる事無く
私自身も気付けずに
日陰へと追いやっていた
顔の無い
それだけの存在
痒い 寒い 痛い
重い 暗い 笑い
私は、
もうじき死ぬのだろう
湿気を帯びた
黴の生えた毛布の中で
誰の目にも触れる事無く
虫たちと戯れながら
虚像の陰で過ごした
つまらない、
実につまらない一生を終えるのだ
笑い 笑い 笑い
笑い 笑い 笑い
「…」
「私は此処で死ぬ!」
胸が詰まる、胸が焼ける
嗚咽が漏れる、涙が溢れる
涙…?
こんな時にまで
お前はしゃしゃり出て来るんだな
後生だから、
最後を迎える時ぐらい
私を私でいさせてくれよ
「最後くらい自分を偽るな、兄弟…」
孤独で気だるい
今にも途切れそうな
ビニールシート越しの午後、
虚ろな瞳を濡らし
泣いていたのは
…私だった
貧相な容姿をした人々が
居ついてしまった
伸びきった髭に
フケだらけの痛んだ髪
色褪せ伸びきり、黄ばみを帯びた服に
其の身を預けざるを得ない
見窄らしい風体をした
浮浪者たちの群れであった
軽蔑した瞳で
遠巻きに眺める人々
嘲笑する者
憐れむ者
反応は様々だが
唯一共通するのは
他人事という意識だろう
逞しい幹に支えられ
幾重もの枝を天に這わす事の出来る
何の不自由の無い生活の中で
少なからず
彼らより上に居るという
ちっぽけな優越感に蝕まれ
幸せとはどういったものなのかという
ちっぽけな疑問にさえ
答えを窮してしまう
ちっぽけな自我に気付いた時
華やかだった
私の生活は一変し
ダニと空腹が支配する
惨めで不様な色へと染まっていった
ゴミ箱を漁る
俯瞰的と称した
主観的な現実
ビニールシートの中で
愛し愛された日々について
想い想われた日々について
未だ抜け出せぬ矛盾について
延々と延々と…
もしかすると
私の幸せ、
…否、
私の人生自体が
詐称であったのかも知れない
華やかな演出に彩られた
愛を掲げた不様で滑稽な茶番
私はきっと、
心から愛する大切な人たちにさえ
私自身の愛を示す事をしてこなかったのだろう
小道具、大道具、
時に舞台セットまでをも揃え
誰かの作った脚本を
必死に演じながら
愛というものを振りまいていたのかも知れない
父や母、兄弟、友人、
そして君すらも欺きながら
何年何十年と虚飾の日々を重ね
今、自らが歩んできた道を振り返ってみると
其処に、
私と呼べる存在は居なかった
皆が愛してくれたのは
きっと私ではなく
私の演じる、
誰かの想い描いた理想だったのだ
痒い 寒い 痛い
私は、
もうじき死ぬのだろう
湿気を帯びた
黴の生えた毛布の中で
誰の目にも触れる事無く
虫たちと戯れながら
虚像の陰で過ごした
つまらない、
実につまらない一生を終えるのだ
それで
いいのかも知れない
私が死んで
誰が泣くというのだろう
誰が悔やむというのだろう
きっと、
私が死んだ事にすら
気付く者は居ないでしょう
哀悼される対象は
私ではなく、私の虚像
私自身すら欺き
顔も名前も戸籍も
人生全てを奪っていった
私の片割れ、私の理想
生活に追われ
愛されたいと想うが故に生じた
私自身の影
笑ってくれ
今や、お前が私で
私が影だ
こんなにも…、
こんなにふざけた話があるだろうか
順風満帆な人生、
さぞかし満喫した事でしょうね
だが、その人生も
もうお終いだ
「嫌だ、死にたくない!」
「否、私は此処で死ぬ!」
胸が詰まる、胸が空く
嗚咽が漏れる、笑いが漏れる
こんな時にまで
お前はしゃしゃり出て来るんだな
後生だから、
最後を迎える時ぐらい
私を私でいさせてくれよ
いつの頃からだろう
理想と幸福との間で
福相な容姿をした虚像が
居ついてしまったのは
カビきった卑下を
コケだらけの痛んだ紙に書き殴り
色褪せ張り付き、僻みを帯びた不服に
其の身を預けざるを得ない
見苦しい焦燥に駆られた
戸籍の無い人格の成れの果て…
誰にも知られる事無く
誰からも好かれる事無く
私自身も気付けずに
日陰へと追いやっていた
顔の無い
それだけの存在
痒い 寒い 痛い
重い 暗い 笑い
私は、
もうじき死ぬのだろう
湿気を帯びた
黴の生えた毛布の中で
誰の目にも触れる事無く
虫たちと戯れながら
虚像の陰で過ごした
つまらない、
実につまらない一生を終えるのだ
笑い 笑い 笑い
笑い 笑い 笑い
「…」
「私は此処で死ぬ!」
胸が詰まる、胸が焼ける
嗚咽が漏れる、涙が溢れる
涙…?
こんな時にまで
お前はしゃしゃり出て来るんだな
後生だから、
最後を迎える時ぐらい
私を私でいさせてくれよ
「最後くらい自分を偽るな、兄弟…」
孤独で気だるい
今にも途切れそうな
ビニールシート越しの午後、
虚ろな瞳を濡らし
泣いていたのは
…私だった
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