山羊の瞳
剥製の様な横顔が
幾重もの像を跨ぎながら
楕円状の瞳孔へと焼き付いてゆく

そう、
斜向かいの家の窓には
悪意と嘲笑が張り付いていたのだ

抗う程に食い込んでゆく
蜘蛛糸の様な意地の悪さに耐え切れず
怒声が、罵声が、
箒星の様な尾を描きながら
窓硝子越しの細胞膜へと降り注ぐ
明くる日の午後、
また明くる日の午後…∞

生じた活動電位も
誘導された回路上を漂うのみ

常識への隷属、
惰性の上澄みは
贋作の贋作

手を伸ばしても
背伸びをしても
重力からは逃れられず
掴めるものは
虚構を溶かした虚勢とエゴだけ

流れに任せて落ちてゆくか
流れに逆らい落ちてゆくか
つまるところ、
どんな思想の許にあれど
この重力からは逃れられないのである

落ちて消え行く定めなら
砕ける前に弾ける前に
この窓を、この緯度を、
過度の虚飾で彩ってやる

外を見渡す、

反射された光が
幾重もの像を跨ぎながら
楕円状の瞳孔へと焼き付いてゆく

そう、
斜向かいの家の窓には
僕自身の
悪意と嘲笑が張り付いていたのだ
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2011.05.14