美食
僕はお腹を満たす。
空腹から逃れる為に。

…空腹から逃れる為?
否、それは虚飾の弁かも知れないな。

僕はお腹を満たす。
味を堪能する為に。

…味を堪能する為?
否、それも虚飾の弁かも知れないな。

…最近気が付いたんだ。
食と蝕はよく似ている。

美食家の僕は 今日もお腹を満たす。
"それ"を理解する為に …食したものになる為に。

"それ"が 舌を介して伝わる度に
僕は大きく大きく膨れ上がる。

膨張した身体と情報、 ナイフとフォーク。
美食と言う名の宇宙。

そう、僕は星にならねばならないのだ。

美食家の僕は ありとあらゆる食材を口にしてきた。
鶏・豚・牛・魚は勿論、虫や土
…果ては人の肉まで。

美食家の僕は 今日もお腹を満たす。
"それ"を理解する為に …食したものになる為に。

お洒落なクラシック流れる モダンな店内で味わう
最上級のヴィンテージ・ワインとステーキ。
焼き加減はミディアム・レアで。

貸切の店内、交差する苦痛と至福
薄れ行く意識の中で味わう最高の美味。

箍が外れ、止め処なく溢れ出す僕は
漆黒の渦中へと吸い込まれ
幾重もの味と混ざり合い 融ける。

星になり、見下ろす僕は
この日初めて
僕が何者であるのかを知った。
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2007.05.31