螺旋階段
明け方の
霧靄かぶる山の中
日差しも鈍る木々の間を
麦藁帽子を目深に被った
片手の少女が駆けてゆく。

細い山道
積もる落ち葉を踏みしめて
はだしのまま 無邪気なままに。

回転を始める虫の背は
鈍い圧迫音とともにひしゃげながら
地に伏した
どんぐりの穴へと流れ込む。

泥濘のひるたちは
「わぁっ…」っと静かに声をあげ
頭を震わせ尺取りながら
低空飛行で滑り込む

「あはははは…」
はだしの少女は笑ってる。
無邪気なままに 脈打つままに。

かがみこみ どんぐり覗けば
ちいさく まぁるいその穴は
ねじれ込む虫の心拍に促され
ぶるぶると収縮運動を繰り返す。

「かぁかぁーがぁー…」
からすたちが騒いでる。

山頂付近の伐採地、
雄雄しく聳える鉄の骨は
高圧電線の蜘蛛の巣張って
今日もお空を抱えてる。

白 黒 青 赤、
激しく廻る空の色。

踊る踊る山の奧
触れる触れる
少女の肩に

「あはははは…」
はだしの少女は笑ってる。
無邪気なままに 地に伏すままに。

収縮 開放 溶脱
少女は粒子に溶け合いながら
中途半端な土となる。

虚ろな少女の鼓膜では
むかでのこどもが孵化をして
鉄の骨へとよじ登る。

蠢蠢 蠢蠢 徒列を組んで
大きな蜘蛛の巣 噛み千切る。

「ばちばちばちばち…」
眩い閃光ほとばしり
お空が山に落ちてきた。

びくびく脈打つ蜘蛛の巣は
剥き出しの神経 垂らしながら
少女のからだに鞭を打つ。

溢れんばかりの電流は
土の奧へと吸い込まれ
少女の
欠けた右手の神経と
鉄の骨の
剥き出しになった神経が
絡み合って混ざり合い
白黒の螺旋階段を組上げてゆく。

「あはははは…」
はだしの少女は駆け上がる。
無邪気なままに 地に伏すままに。

からっぽの空の上、
新たな空になった少女は
寒天質の夢の中
胚子卵割を繰り返す。
関連記事

2007.09.08